社長の右腕を雇うリスク

社長の右腕を雇うリスク

会社経営を一定の軌道が乗せることができれば、次に求められるのは社長の右腕となる秘書的な存在です。私自身も会社設立2年目で年商1億円を超えた頃、そうした人材を探していた時期がありました。細かい事務作業やアポイントの調整など、社長業務の足かせとなる雑務をこなしてくれる人物が欲しかったのです。

しかし、結論から言うと私は右腕探しを諦めました。その理由は、私のようなスタンスや考え方に合う人材がなかなか見つからなかったことにあります。結局、会社の社長の右腕といえども、あくまで雇われのサラリーマンです。一方で、私たち起業家は「ガンガン売上を作っていくぞ」といったマインドセットを持っています。こうしたお互いの前提条件が根本的に異なるため、上手く歩調を合わせられる相手は少ないのが実情です。また、経営者気質があれば自ら起業する道を選ぶはずなので、そこに矛盾が生じてしまいます。


さらに右腕を雇うリスクとして、「着服」の問題があります。ある程度の規模があり有名な会社経営者で、右腕的な立場の人材を雇っていた場合、ほぼ例外なくその人物から会社のお金を着服されてしまったという悲しい実態があるのです。経営者にとって、お金の管理は避けて通れない課題です。そのため、法人口座の管理権限まで右腕に与えてしまうと、いつの間にかその人物が勘違いして会社のお金を私物化し、経費として使い込んでしまうケースが多発しています。冷静に考えれば、それは窃盗罪と同じなのですが、実際には多くの経営者がこうした被害に遭っているのが現実です。



このように様々な理由から、年商数億円までの規模であれば、右腕的な人材は不要だと私は考えています。中には、被害想定額に応じて別の銀行口座を用意するなどの対策を取る経営者もいますが、毎月の支払い作業を考えれば、かえって非効率的です。


私の場合、事務作業は可能な限り外部委託しています。お金の動きに関わる部分について個人の外注スタッフに依頼するのではなく、秘密保持契約等を結べる企業に委託しています。そして最終的に法人口座へのアクセス権限を持てるのは私自身のみという体制を取っています。具体的には、経費支払いの一覧リストを毎月作成してもらい、それに従って私が振込処理を行うだけです。この作業に要する時間は10分もかかりません。


人を雇えば、いつ辞められるかわかりません。優秀な人材であっても、気付けば去っていってしまうのが世の習わしです。そうした事態に備え、できる限り仕事を細分化しマニュアル化し、信頼できる会社に外注する方が賢明です。お金の動きに関わる最終判断だけは自分で行います。こうすれば、リスクをヘッジしつつ自分の手間も最小限に抑えられると考えています。


実際に、右腕の着服で会社が倒産に追い込まれた例も、私の知人にいます。事業規模が大きくなればなるほど、このようなリスクは高まります。ですので人を雇う際は、過剰に信用を置かないことが何より大切なのです。